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スタッフブログ

2026.01.07
『親子で育てる ことば力と思考力』
こんにちは、小川です。
今回、慶應義塾大学環境情報学部教授の今井むつみさんの著書『親子で育てることば力と思考力』を拝読しました。

日々、子どもたちと向き合い指導をする中で、「どうすれば子どもが自ら考え、主体的に学び続けられるのか」「大人はどのような距離感・言葉かけで関わることが、本当に子どもの力になるのか」という問いを、私自身、常に考え続けています。本書は、そうした問いに対して、感覚論ではなく、認知科学・発達心理学という確かな研究に基づいた視点から、多くの示唆を与えてくれる一冊でした。今井さんは、赤ちゃんや幼児を対象とした実験研究をもとに数多くの論文を発表し、世界を舞台に活躍されている発達心理学者です。
本書を通して強く感じたのは、子どもたちが「自分で学ぶ力」を育んでいくうえで、ことばの力が極めて重要な土台になっているという点です。認知科学や発達心理学の研究によると、大人が「教えよう」「正解を与えよう」とすればするほど、子どもは学ぶことへのワクワク感を失い、自ら考え、学ぶ力が育ちにくくなるといいます。子どもの力を信じ、待ち、引き出す。そのために、大人はどのような言葉を選び、どのように関わればよいのか。本書では、ことばの力と思考力を同時に伸ばすための具体的な関わり方が、いくつかのポイントに整理されて紹介されています。以下、その中から、指導の現場に立つ立場として、特に印象に残った点を抜粋して紹介します。

■生きた知識
必要な時にすぐに取り出せて使える知識を「生きた知識」と呼びます。母語の知識はまさに生きた知識の代表です。子どもは覚えた単語や文法の知識を自分でどんどん組み合わせ、自由自在に話すことができるようになります。つまり「生きた知識」を成長させていくことができます。子どもはほんとうにすごい分析力、推論力、学習力を持っているのです。ただし子どもがこの能力を最大限に発揮するためには、まわりの大人の接し方が大きく影響します。

■思考力(問題解決能力と情報処理能力)
思考力というのは「知識を使って、推論し、問題を解決する力」と言えます。問題の解決は知識がありさえすればできるわけではありません。推論が必要です。推論をするためには思考をコントロールする「実行能力」と脳に記憶されている必要な知識に素早くアクセスする「情報処理能力」が欠かせません。知識がこの二つの力に支えられてはじめて推論が可能になり、問題が解決できます。思考力、つまり「考える力」はすべてのことの学びになくてはならない大事な能力です。

→ 生きた知識は選手との関わりにおいても、とても重要だと感じました。ただアドバイスを与えるだけでは一方通行の指導になってしまいます。選手たちが必要な知識をすぐに取り出すことができる関わり方、一つひとつの動作に対して、子どもたち自身が考え、素早く答えを導き出せるような言葉かけの大切さを改めて感じました。

■日常会話で使うことばだけでなく抽象的な意味を持つことばが必要
小学校で、多くの子どもが急に学校の授業を難しく感じる時期があり、この時に勉強がきらいになってしまう子
どもがたくさんいます。この時期は3年生から4年生にかけて起こることが多いので「9歳の壁」と言われています。問題は二つあり、一つは語彙が足りないこと。特に抽象的な意味を持つことばがよく理解できないこと。もう一つはことばの意味を状況に合わせて考えることができないことです。自立した学習ができるためには、知っていることばの数を増やすだけでなく、新しいことばをさまざまな場面で学習し、どんどん語彙を豊かにして読んだこと、学んだことを生きた知識にしていくことが必要です。

■乳幼児期から児童期にことばにたくさん触れ、ことばの意味を自分で考える機会をつくってあげることが大切
幼児期で何よりも大事なのは、日常生活や遊びの中で、自分の身体を使って五感全体で身の回り世界を探索し、その中でことばに関する興味や感性を育むこと、数、空間の中のモノ同士の関係性、できごとの因果関係に自然に注意を向けるようになることなのです。抽象的な概念に対して、その概念の具体的な例を自分で思いつくことができる。これが抽象的な内容を理解するためにとても大事なことなのです。

→ 幼児期・児童期に、どれだけ「自分で考えることができる環境」を用意できるかが大切だと感じました。
指導の型にはめるのではなく、選手自身が考え、行動することで視野が広がり、感性が育っていくのだと思います。そのためにも、指導者は選手の可能性を広げる関わり方をしていかなければならないと感じました。


本書を通して繰り返し語られているのは、「自分で学ぶ力」を育てるうえで、何よりも重要なのがことばの力である、ということでした。これは勉強だけに限った話ではなく、体操をはじめとしたスポーツの指導においても、まったく同じことが言えると感じています。技術を教えること、方法を伝えることはできます。しかし、「考え方」や「判断力」「挑戦し続ける姿勢」は、教え込むことでは身につきません。

選手自身が
・何が起きているのか
・何がうまくいったのか、いかなかったのか
・次にどうすればよいのか

自分のことばで整理し、考え、行動に移していく。その積み重ねこそが、競技力だけでなく、人としての成長にもつながっていくのだと思います。そのために、私たち大人に求められるのは、「答えを与える存在」ではなく、考えるきっかけをつくる存在であること。選手の可能性を狭める言葉ではなく、可能性を広げる言葉を選び続けること。そして、選手自身の力を信じて、待ち、見守る姿勢だと感じました。

ことばの力を伸ばすことは、体操の成長にも、人生の成長にも、必ずつながります。選手たちが自ら考え、実行し、失敗し、そこから学び、挑戦し続けられる環境を大切にしながら、今後も一人ひとりと丁寧に向き合っていきたいと思います。