『「教える」を手放す 人とチームの自律を引き出すコーチング』
こんにちは。小川です。
現在、アメリカでサッカーW杯が開催されています。日本代表は強豪ブラジルに惜しくも敗れましたが、最後まで諦めずに戦い抜く姿や、何度も心が熱くなるプレーで日本中に大きな感動を届けてくれました。勝敗を超えて、人の心を動かし、勇気や希望を与えてくれるスポーツの素晴らしさを改めて実感しました。そんな中、私は小井土正亮さんの著書『教えるを手放す』を読ませていただきました。小井土さんは名門・筑波大学蹴球部の監督として大学日本一を成し遂げ、日本代表として世界で活躍する三笘薫選手をはじめ、多くの優れた選手を育成されてきた指導者です。今回、三笘選手は怪我のためW杯への出場は叶いませんでしたが、必ず復帰し、再び世界の舞台で素晴らしいプレーを見せてくれることを期待しています。本書には、三笘選手が大学4年間でどのような学びを得て成長していったのか、学生との関わり方や指導者としての在り方など、多くの示唆が詰まっています。私自身も体操の指導現場に立つ一人として、多くの学びと気づきを得ることができました。今回は、その中でも特に印象に残り、日頃の指導にも生かしていきたいと感じた内容を抜粋してご紹介します。
▪︎「待つ」ことが人を成長させる
メンバーはどのようなときに成長するのか。端的にいえば、その人が成長を心から渇望しているときです。ではどうすれば渇望させられるのか。私は「待つ」以外にないと思います。「タイミングイズマネー(その時が大切)だなとつくづく感じています。ドイツのある建築家が遺した言葉に「Less is More(少ないことは豊かなことだ)」があります。コーチングについても同じだと感じています。多くの言葉を投げかけることで一つひとつの言葉の重みがなくなってしまう。「待つ」そして「見守る」そのスタンスはコーチングにおいてとても重要だと思います。
▪︎「雰囲気」をデザインする
組織の雰囲気について、ある哲学者の論考を参考に「個々の感情の集合体であり、空間化した感情である」と定義づけしました。その場にいることに対する一人ひとりの居心地や、そこにうごめく感情をいかにマネジメントするか。こうすべきという明確な答えはありません。ただ「雰囲気」が個々の感情の集合体であるという認識に沿えば、リーダーはメンバーの個々の顔を見て、その感情面に対して個別にうまく働きかける。その結果として、組織の「雰囲気」をうまく操ることができると考えています。
→選手一人ひとりの個性や価値観を理解し、それぞれに合わせた関わりを積み重ねることが、チーム全体の雰囲気や成長につながっていくのだと改めて感じました。指導をしていると、「もっと良くなってほしい」という思いから、多くのアドバイスを伝えたくなることがあります。しかし、本書を通して、指導者に必要なのは教えることだけではなく、選手自身の気持ちが高まり、自ら考え、行動しようとするタイミングまで「待つこと」「見守ること」の大切さであると気づかされました。実は、私たちのクラブジャージの背中には「Less is More」という言葉が刻まれています。この言葉は、クラブ代表の米田先生が提案してくださいました。この言葉には、本当に大切なことをシンプルに、そして深く伝えていくという意味が込められているように感じています。私自身も指導者として、複雑になりがちな環境の中だからこそ、本質を見失わず、選手の成長につながる大切なことを分かりやすく伝えられる人でありたいと思います。
▪︎「教える」から「導く」へ
私たちが普段何気なく使っている「指導」には、決定的に異なる2つのアプローチがあります。「Teach」と「Coach」です。「Teach」は教えること。知っている者が、知らない者に知識や正解を授ける行為です。一方「Coach」の語源は「馬車」です。人を目的地まで運ぶ、連れていく、つまり「導く」行為を指します。わかりやすく表現すれば、「ティーチング」は「問いの答えそのものを教える(知識を授ける)」であり、コーチングは「問いの解き方を一緒に考える(知識を生み出す)」ということです。
▪︎Teach(教える)とCoach(導く)の違い
ティーチングは、短時間で効率よく情報を伝えるのに適しています。スポーツ指導においても、効率がよくスキルを身につける、チームとしてのある一定の枠組みについて共有する際はティーチングに近い働きかけ方をすることが一般的です。基準を揃える、組織の方向性を一致させる、必要なスキルを個人が効率よく身につける、といった目的の達成のためにはティーチングは有効な手段であるといえます。一方でティーチングだけでは、個人もチームも真の意味では直になることはできません。ティーチングという行為自体が、指導者側が持っている知識や経験を授けるというスタンスであるため、それに慣れてしまうとそれが適用できない状況においては、メンバーの中から即興的に新たなものが生まれてくるということが起きづらくなります。コーチングは「導く」ことがその主たる目的です。つまり、目の前の相手が、それが個人であっても集団であっても、自身で動き出してくれることを目指します。単にスキルを教えるのではなく、相手との関係性を築き、思考そのものに働きかけるアプローチです。
→指導の現場では、どうしてもティーチング(教えること)を優先しがちです。一つの技を習得するためには、ポイントや動きを分かりやすく伝えることが、選手にとって効率的で理解もしやすいため、ティーチングは欠かせない指導方法だと感じています。一方で、その技を試合で通用するレベルまで高めていくためには、ティーチングだけでは十分ではありません。完成度をさらに高めるためには、選手自身が「なぜできたのか」「どうすればもっと良くなるのか」を考え、自ら工夫し、試行錯誤を重ねることが不可欠です。その過程で、指導者が答えを与え続けるのではなく、問いかけや対話を通して選手の気づきを引き出し、自ら答えを見つけられるように導く「コーチング」が大きな役割を果たすのだと思います。ティーチングで土台をつくり、コーチングで選手の可能性を引き出す。この二つを適切に使い分けることが、選手の主体性を育み、さらなる成長につながることを、本書を通して改めて実感しました。私自身も選手が自ら考え、工夫し、成長していけるような関わりができる指導者を目指していきたいと思います。
今回この本を読ませていただき、指導とは決して完成形があるものではなく、常に進化し続けるものであることを改めて実感しました。現状に満足することなく、新しい考え方や知識を積極的に取り入れ、これまで培ってきた経験と融合させながら、より良い指導を追求していく姿勢に大きな感銘を受けました。スポーツの世界だけでなく、情報や価値観も日々変化しています。その変化に柔軟に対応し、既存の考え方に新たな学びを加えながら、自分自身も進化し続けることの大切さを改めて学ぶことができました。そして何より、選手一人ひとりと真摯に向き合い、それぞれが掲げる目標や願望の実現に向けて、どのような関わりができるのかを考え続けることが、指導者として最も大切な役割であると感じています。今回の学びを日々の指導に生かしながら、私自身も学び続け、成長し続ける指導者でありたいと思います。そして、その成長が選手たちの成長につながり、一人でも多くの選手が夢や目標を実現できるよう、これからも挑戦を続けていきたいと思います。